研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis,以下ALS)は致死的神経変性疾患であり、早期に病因の解明と有効な治療法の確立が求められている。1993年Cu/Zn superoxide dismutase(SOD1)遺伝子が一部の家族性ALSを引きおこすことが発見された。以来、変異SOD1がもたらす運動ニューロン変性のメカニズムを解明する研究は世界中で行われALS病態解明が進んでいるが、いったん失われた運動神経系の再構築をめざした再生研究はまだ発展途上にある。本研究では代表者の青木らが開発した変異SOD1トランスジェニックラットによるALSモデル(ALSラット)を用いて変性脊髄に神経再生を促進しやすい微小環境の誘導を試みた。 ALISラット脊髄に認められる内在性再生機転は不十分で、発症後にようやく内在性神経幹(前駆)細胞の増殖が認められるが、運動神経系の再生への寄与は確認できなかった。一方、ミクログリア・アストロサイト・グリア前駆細胞の増殖は発症後に進行性かつ顕著であった。このグリオーシスと関連した再生阻害因子の発現亢進は末期に至るまで進行性であった。これら脊髄変性と並行し支配骨格筋では進行性の脱神経・神経原性筋萎縮が進行していたが、脱神経筋においても内在性の骨格筋再生が明らかとなった。細胞外微小環境調整因子として期待できる再生誘導因子を発症後より髄腔内持続投与すると、再生阻害因子の発現や神経炎症を抑制し、結果として上述の神経変性を遅延できることが明らかとなった。ALSに対する細胞移植や内在性神経幹(前駆)細胞活性化を狙う再生医療を開発する際には、合わせて本研究のような再生促進環境の誘導戦略を組み合わせることが重要な意義をもつと考えられた。
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