我々はこれまで脳虚血病態においてRho-kinase阻害薬が脳保護効果を発揮することを報告してきたが、その機序として内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)活性化を介することが考えられる。まず脳虚血病態において、虚血部とその周辺領域における部位別の経時変化について詳細に検討を行った。虚血領域とその周辺では経時的にeNOS蛋白の発現が増加していたが、虚血領域ではeNOSの重要な活性調節機構であるeNOS-Ser1177のリン酸化は低下していた。虚血周辺部ではリン酸化は保たれており、eNOS蛋白発現増加により同領域におけるeNOS活性は上昇しているものと考えられた。Rho-kinase阻害薬は初期には虚血部のeNOSリン酸化低下を防ぎ、その後の時相では梗塞周辺部のeNOS活性を高く保つことで組織障害の拡大進展を防ぐものと考えられた。高血圧自然発症ラット(SHR)では、週齢とともに血圧が上昇し、これに伴いeNOS-Ser1177のリン酸化は低下していた。Rho-kinaseの上流にあるアンジオテンシンIIの受容体拮抗薬(ARB)を慢性投与することにより、このeNOSリン酸化低下は防ぐことが可能であった。またこのことを介してeNOS依存的な脳血管2反応性も保たれ、虚血性脳障害そのものも軽減されていた。また脳血管には脳血管近位部閉塞などによる灌流圧低下に際して、脳血管リモデリングによる側副血行路を発達させる機能が本来備わっているが、SHRではこの組織応答も障害されている。ARBの慢性投与はこのリモデリングの障害も軽減していた。Rho-kinase阻害薬、ARBはともにeNOS活性化を介して脳血管機能を保つことにより、虚血性脳障害を軽減させている可能性があることが示された。
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