研究概要 |
転写因子CREB (cAMP responsive element-binding protein)は、脳内に豊富に発現し、記憶、神経可塑性、細胞生存など幅広い神経機能、或いは病態に関与する。他方、NMDA受容体にはNR1/2A,NR1/2B,NR1/2Cなどのサブタイプが存在し、各々、発達段階における発現様式、神経系における役割は異なる。特にNR2Aサブタイプは神経保護に繋がり、NR2Bサブタイプは神経障害に繋がりうる。そのメカニズムとしては多岐にわたることが報告されている。まずCREBに関連しては、脳虚血時にはCa^<2+>/calmodulin-dependent protein kinase(CaMK)1/4の活性化により、SIK2が分解され、TORC1-CREBを介して下流の神経保護因子の発現を誘導する新規シグナル経路を世界で始めて同定(Neuron誌に報告)。脳虚血時神経細胞においてはNMDA受容体を介したCa^<2+>流入が重要であるが、特に今回我々が明らかとしたCaMKI/IV→SIK2分解→TORC1活性化という経路は、脳虚血の内因性保護シグナル、或いはsynaptic NMDA受容体(主にNR2A-containing NMDA受容体)を介した神経保護シグナルに関与していた。更にSIK2遺伝子欠損マウスを作製して検討したところ、SIK2KOマウスでの神経細胞生存促進効果、脳梗塞サイズ縮小を認めた。本研究は、従来のCREB Ser133の重要性の加え、SIK2によるTORC1-CREBシグナルの重要性も示された。更に、NR1/NR2Bサブユニットの選択的阻害剤であるRo256981を、ラット永久閉塞モデルに投与したところ著しく梗塞サイズが縮小し、この梗塞サイズ縮小にはcalpain活性化によるタンパク分解阻害(CaMK4)、またはTRPC6チャンネルの発現亢進を抑制することなどが関与することを見出し現在論文執筆中である。一方、我々は、ニコチンによるnicotinic actylcholiene receptor (nAChR)活性化は神経細胞へのストレスに対する保護効果があり、特にα7 nAChRにおいては、その効果がTORC1-CREB経路であることも見出しており、これも現在論文執筆中である。
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