われわれはパーキンソン病を病理学的に特徴付ける封入体(特定のタンパク質が異常に凝集した細胞内構造物)=Lewy小体の形成過程を明らかにする目的で、これまでLewy小体を構成する主なタンパク質であるα-synucleinならびにα-synuclein結合タンパク質のsynphilin-1についての解析を行ってきた。前年度にはまずESCRT系のサブユニットの一つであるCHMP2(charged multivesicular body protein)Bタンパク質に対する抗体を用いて、アルツハイマー病患者海馬に認められる顆粒空胞変性が選択的に染色されることを確認し、「顆粒空胞変性」が多胞体(multivesicular bodies)と称される細胞内器官と相同な構造物であることを示した。それにひきつづき本年度はCHMP2BならびにCHMP4Bがパーキンソン病患者の中脳黒質ならびに青斑核のLewy小体(ハロー)において、α-synucleinと共存していること、また延髄迷走神経背側核には未知のCHMP2B陽性顆粒状構造物の存在を明らかにした。本構造物はLewy小体の増加とともに減少する傾向があり、Lewy小体の前駆体である可能性が示唆された。多系統萎縮症においてもCHMP2Bはα-synucleinで構成されるglial cytoplasmic inclusionにて陽性であった。Lewy小体のin vivoモデルとしたSiah-1/Synphilin-1強制発現系で観察される空胞についてp62、ユビキチン(k48、k63)、valosin-containing protein(VCP1)、early endosomal antigen 1(EEA1)、LAMP3、CHMP2B、HDAC6、LC3を認識する各抗体を用いて細胞免疫学的検討を行い、この空胞が初期エンドソームに関連したものであることを示した。このことからSynphilin-1のSiah-1によるユビキチン化がESCRT経略へ至るシグナルであることが示唆された。
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