研究概要 |
本研究では、中枢神経系での発現を主体とするclaudin domain containing 1(CLDND1)蛋白に対する自己免疫応答の多発性硬化(MS)症病態への関与を解明することを目的としている。本年度は、抗CLDND1抗体を用いて、マウス、ラット、ヒトの中枢神経組織でのCLDND1蛋白の発現を検討し、更にMSの動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)やMS組織でも検討を行った。正常マウス、ラットの組織の免疫染色では、中枢神経系の脳梁や内包、白質に発現が認められ、末梢神経での発現は認められなかった。髄鞘での染色パターンは、claudin-11と同様に髄鞘に沿って間欠的に染色された。また、中枢神経系における脳毛細血管周囲、網膜毛細血管周囲にも発現が認められた。血管内皮細胞との二重染色によりCD34と一部重なることから、内皮細胞側での発現が示唆された。他の臓器では、肺、腎臓、肝臓、骨格筋では発現は認められなかったが、心筋で淡い染色が認められた。一方で、SJL/JマウスにPLPペプチドを免疫することでEAEを誘導し、急性期と慢性期の脊髄脱髄病変にて検討を行った結果、CLDND1は脱髄病変において脱落していた。また、MS患者における急性大脳病変や慢性期病変でも、同様にCLDND1は脱落していた。Claudin蛋白は様々な臓器に発現し、主にtight junction(TG)の形成に関わる。脳血管内皮細胞に発現するclaudin-1,-3,-5,-12,occludinは、血液脳関門(BBB)の形成に関わり、一方でclaudin-11はミエリン形成に関わることが知られている。本研究の結果より、CLDND1は髄鞘におけるTG形成やBBBの形成にも関わるユニークな蛋白質であると考えられた。我々がこれまでに示してきたMS患者におけるCLDND1に対する自己免疫応答は、BBBの破壊と脱髄の両方を共に惹起しうると考えられ、今後もさらなる検討が必要と考えられた。
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