我々は、末梢神経障害を伴う小脳失調症をspinocerebellar ataxia with axonal neuropathy 1 (SCAN1)と名づけた。我々はその原因としてTDP1の異常を同定した。そのTdp1は、おもにトポイソメラーゼが引き起こす一本鎖DNA切断を修復するシステムにかかわる酵素である。近年、TDP1がその他のDNA修復にも関与することが明らかとなってきた。本症は、一本鎖DNA修復と関連した新しい疾患発症機序が考えられている。しかし一方どのように一本鎖DNA修復障害が神経変性を引き起こすのかについては未解明である。我々は、本症の神経変性の機序を明らかにするため、ノックアウトマウスを作成し、SCAN1の発症機序の解明を行った。解析では、Tdp1ノックアウトマウスは、8ヶ月齢までは神経症状を呈さなかったが、今回さらに長期間の観察による神経系への影響を確認した。その結果、マウスは生後280-330日あたりで、急激なやせを伴い死亡する現象が見られ、コントロール群より明らかに短命であった。その理由として視力の障害が考えられ、その後栄養障害、脱水を来すことが短命の理由と思われた。眼球の病理所見は網膜萎縮が見られ、とくに外顆粒層と内顆粒層の比の異常がはっきりしていた。網膜萎縮の機序として、光ストレスや活性酸素によるDNAの障害が網膜変性の機序と関連と考えられ、DNA修復、ミトコンドリア関連など、多方面からその機序を検討している。これまで、SCAN1患者における神経細胞の脱落の機序は、単なるloss-of-functionの序ではなく、一本鎖DNA修復過程Single strand Break repair (SSBRs)と網膜神経細胞の障害について、さらに追求していく必要がある。
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