以前我々は末梢神経障害を伴う小脳失調症をspinocerebellar ataxia with axonal neuropathy 1 (SCAN1)と名づけた。それは一本鎖DNA修復にかかわる酵素であり、新しい疾患発症機序が考えられた。本症の神経変性の機序を明らかにするため、モデルマウスの解析を行った。Tdp1ノックアウトマウスは、8ヶ月齢から、徐々に視力低下を伴い、歩行障害などの神経系への影響を確認した。マウスは10ヶ月齢あたりで、急激なやせを伴い死亡する現象が見られ、コントロール群より明らかに短命であった。我々は今回マウスの視力の消失の原因について、様々な検討を行った。病理学的には、網膜萎縮が見られた。とくに外顆粒層と内顆粒層の比の異常がはっきりしているため、光ストレスによる症状の早期の発現がみられるのかを検討したが、光ストレスでは発症を誘発することが出来なかった。またDNAの修復機構にTDP1がミトコンドリアで強く働いていることから、ミトコンドリアのDNA修復の異常について検討した。高齢のTDP1ノックアウトマウスにおいて、筋ミトコンドリアの病理学的な探索では、コントロールに比し、ミトコンドリアの異常は検出できなかった。 さらにマイクロアレイによるノックアウトマウス小脳細胞における転写能の検討を行ったが、その影響は軽微であり、TDP1の欠失にかかわらず、明らかな転写の異常は認めなかった。これまでの病態解析からは詳細な、発症メカニズムを特定することは出来なかったが、一本鎖DNA修復過程Single strand Break repair (SSBRs)と網膜神経細胞の障害について、さらに追求していく必要がある。
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