ジストログリカン(DG)は筋細胞膜に存在する蛋白質であり、基底膜中のラミニンと結合することにより細胞膜を安定化し、各種のシグナルト伝達に関与している。近年、福山型先天性筋ジストロフィーやラミニンα2鎖欠損先天性筋ジストロフィーではDGとラミニンとの結合が破綻することが筋細胞壊死の原因と考えられるようになっている。一方で糖転移酵素LARGEによりDGのラミニン結合能が著明に亢進することが明らかとなっている。本研究の目的はこのLARGEの持つDG機能亢進作用を用いた筋ジストロフィーに対する治療の可能性を探ることである。 本年度は研究代表者らが作出したLARGEを過剰発現するトランスジェニックマウス(LARGE Tgマウス)をラミニンα2鎖欠損先天性筋ジストロフィーのモデルマウスであるdy2Jマウスと交配し、同マウスにおける筋ジストロフィーの病像がどのように変化するかを検討した。 LARGE遺伝子が導入されたdy2Jマウス(dy2J/LARGEマウス)はDGの著明なラミニン結合能の亢進を示した。しかし予想に反してdy2J/LARGEマウスはdy2Jマウスよりも生育が悪く、骨格筋の変性壊死もより強く認められた。この原因を探るべくDNAマイクロアレイ解析を行ったところ筋繊維の分化や線維化にかかわるに係わる遺伝子の発現変動を認めた。 dy2Jマウスはラミニンα2鎖の点変異による基底膜の形成異常が原因と考えられており、LARGEによるDGのラミニン結合能の亢進により基底膜の構造強化が期待された。しかし逆にLARGE遺伝子の導入によりdy2Jマウスにおける筋線維の変性壊死は増悪する結果となった。この原因としてDNAマイクロアレイ解析の結果からDG-ラミニン結合の増強により何らかの細胞内シグナル伝達に変化が生じた可能性が推測され、今後検討されるべき課題と考えられた。
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