ラミンA/C遺伝子(LMNA)の変異はエメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー(AD-EDMD)、肢帯型筋ジストロフィー1B型、心筋症、早老症、脂肪異栄養症などの様々な疾患の原因となる。ラミンA/Cには30ヶ所以上のリン酸化部位が存在しており、リン酸化状態の変化がタンパク質の機能発現に重要な役割を果たすことが知られている。 昨年度、我々は4種類のラミンA/Cリン酸化部位特異的抗体を作製し、AD-EDMD患者の筋でラミンA/Cの458番目のセリン残基が患者特異的にリン酸化されていることをつきとめた。さらにこの抗体は筋ジストロフィー以外の疾患を起こす変異型ラミンAには反応しなかったことから、このリン酸化がAD-EDMDの骨格筋症状に関わっている可能性が強く示唆された。 本年度はリン酸化を担うキナーゼに着目して研究を進め、Akt1が細胞内、in vitroともにラミンA/Cのセリンリン酸化を担っていることを突き止めた。Akt1は正常ラミンA/Cをリン酸化せず、筋ジストロフィー変異体のみをリン酸化したことから、筋ジストロフィー変異によるラミンA/Cの立体構造変化が示唆された。またAkt1を恒常的に活性化させるとラミンA/Cのリン酸化がさらに増加したことから、Akt1の活性を調節することにより、筋ジストロフィーに関連したラミンA/Cのリン酸化を制御することが可能であることがわかった。Ser458のリン酸化がラミンA/Cフィラメント形成に及ぼす影響を調べるため、Akt1とラミンA/Cを共発現させて核の形状を観察したが、大きな変化は見られなかった。現在、ラミンA/C結合タンパク質群への影響を解析している。
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