研究概要 |
A型ラミンは細胞の核膜に存在しフィラメントを形成する細胞骨格タンパク質である。他の核膜タンパク質群と結合して核の形状を支持するほか、DNAや転写因子とも相互作用し遺伝子発現の制御にも関わっている。A型ラミン遺伝子(LMNA)の変異はエメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー(AD-EDMD)の原因となる。A型ラミンタンパク質には30ヶ所以上のリン酸化部位が存在しており、リン酸化状態がタンパク質の機能を調節することが予想されるが、疾患との関連は明らかでなかった。我々は本研究においてAD-EDMD患者の骨格筋でA型ラミンのSer458が特異的にリン酸化されていること、リン酸化酵素Akt1がA型ラミンSer458をリン酸化することを見出した(Mitsuhashi et al. J Cell Sci,2010)。そこで今年度はマウス筋芽細胞株C2C12への遺伝子導入、およびAD-EDMD患者由来繊維芽細胞を用い、A型ラミンリン酸化の亢進が核に与える影響を解析した。 野生型、変異型A型ラミンとAkt1をC2C12細胞に発現させた結果、A型ラミンの局在および核の形状はリン酸化を亢進させた場合も正常と変わらなかった。また、ラミンと結合し核膜を支持するタンパク質、LAP2beta,nesprin,emerin,SUN1/2の局在を免疫染色法によって検討したが、A型ラミンのリン酸化亢進によってこれらの核膜タンパク質の局在が変化することはなかった。次に、DNAとの相互作用への影響を調べるため、患者由来繊維芽細胞をヘテロクロマチンマーカーであるH3K27me3,H3K9me3,H4K20me3の抗体を用いて解析したが、リン酸化の亢進とヘテロクロマチンの分布に関連性は見られなかった。一方、患者由来細胞にはA型ラミンの核内fociが多く見られ、そこに筋分化に重要な役割を果たす転写因子が共局在する様子が観察された。
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