研究概要 |
1.新規のTARDBP遺伝子変異(A315E)を有する家族性ALSの一家系を見いだし,その臨床症状と病理所見について詳細に検討し報告した(Neuろlogy77;1427-31,2011).本家系では2世代にわたり4例にALS症状が認められ,内2例ではパーキンソニズムを合併していた.また,2例の剖検所見では通常のALSの病理所見に加えて後索病変を合併する例や著明な黒質病変が認められる例が見られた.同一家系内で同じ遺伝子変異を有しながら,その臨床症状と病理所見に差異があることはこれまで報告がない.TARDBP遺伝子変異はALS発症に関与するが,様々な他の因子がALSに臨床症状を決める可能性を示唆しており,今後のALS研究に有用な研究である. 2.ALSの病因蛋白として現在,TDP-43に加えてFUSが注目されている.FUSは主に核内に存在するDNA/RNA結合蛋白であり,機能的にはRNAの転写,輸送,スプライシング,翻訳などのRNA代謝に関与するなどTDP-43と機能的に共通する.そこで本年度は孤発性ALS20例およびFUS陽性封入体を有するALS4例の剖検例に対してFUS抗体,TDP-43抗体,ユビキチン抗体を用いて病理学的に検討した.その結果,FUS陽性封入体を有するALSで見られる好塩基性封入体はFUS抗体に陽牲であること,FUS陽性封入体を有する神経細胞においてその核の染色性は低下するものから保たれるものまで存在していることが証明された.一方,通常の孤発性ALSで見られるTDP-43陽性封入体はFUSで陽性であるとの報告があるが今回の我々の検討では,それはFUS抗体に陰性であり,共存することは確認できなかった.また,ユビキチン抗体による検討では同じFUS陽性封入体をでも,遺伝子変異の存在の有無によりその染色性に差が認められた.
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