研究概要 |
要約:パーキンソン病(PD)と多系統萎縮症(MSA)の病態機序における消化管の役割に注目し,両疾患における腸音発生頻度をデジタル聴診システムにて測定し,疾患コントロールとしての筋萎縮性側索硬化症(ALS)と正常コントロールと比較し,PDとMSAの腸音発生頻度は明らかに低下していることを発見した.方法:MSA13例,PD9例,疾患対照として年齢を合わせた進行性核上性麻痺と皮質基底核変性症(PSP・CBD)9例,ALS11例,対照18例(健康人8例,非変性疾患10例)において,電子聴診器とデジタルレコーダーを用いた腸音解析システム(Entero Tachogram Analysis System, Western Research Company, Inc., USA.)を用いた定量的腸音解析を行った.評価に用いた指標は1分間に発生する腸音数(分時腸音数)と全評価時間に占める腸音時間の割合(%腸音時間)であり,これらを午前中の食間の時間帯(午前10時~11時)において10分間連続測定した.これは腹部聴診と同様の非侵襲的検査であり,電子聴診器を当てる部位は臍の右約5cm外側とした.測定は静粛な個室内で安静仰臥位にて行った.パーキンソン症状を有するMSA症例,PDおよびPSP・CBD症例においては,抗パーキンソン病薬の開始前に評価を行った.統計学的処理は分散分析とBonferroniの多重比較にて行った.結果と考察:MSAとPDでの分時腸音数ならびに%腸音時間はALSと対照よりも有意に低下していた.これらのマーカーはPSP・CBDと他の群との間に有意差はなかった.アルファシヌクレイン異常症であるMSAとPDでは,腸音発生頻度の低下が共通して見られた.この発見は,アルファシヌクレイン異常症を伴う神経変性疾患では消化管機能障害が共通して見られることを示唆する.
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