研究概要 |
要約:多系統萎縮症(MSA)における消化管神経機能の障害を評価するために、消化管のアセチルコリン神経系によって分泌調節される消化管-中枢神経ホルモンである「グレリン」の分泌動態を評価し、MSAでのアクティブグレリン/総グレリン比の明らかな低下を発見した。 方法:MSA13例(probable MSA-C : 10例, probable MSA-P : 3例)、進行性核上性麻痺/大脳皮質基底核変性症(PSP/CBD)6例,筋萎縮性側索硬化症(ALS)5例、コントロール8例(健康人6例、非変性疾患2例)において、早朝空腹時採血にて血漿中のアクティブグレリンとデスアシルグレリンをサンドイッチELISA法にて定量した。アクティブグレリン値(fmol/ml)とデスアシルグレリン値(fmol/ml)の和(総グレリン値)に対するアクティブグレリン値の比率(アクティブグレリン/総グレリン比)を用いて検討した。グレリンの分泌機能に影響を与える因子として血清レプチン値(ng/ml)とbody mass indexの測定を合わせて行った。 結果と考察:MSAにおけるアクティブグレリン/総グレリン比は7.0±1.4%であり、PSP/CBD(15.4±2.3%)、ALS(14.7±1.8%)、コントロール(13.6±1.3%)よりも明らかに低下していた(P<0.05)。血清レプチン値とbody mass indexは全てのグループ間で有意差は無かった.我々の研究で発見されたMSAでのアクティブグレリン/総グレリン比の低下は、MSAにおける消化管アセチルコリン神経系の障害に起因する現象であると考えられた。また、アクティブグレリンは迷走神経求心路を介して自律神経中枢に作用し消化管蠕動を強力に促進するホルモンであり,MSAでのアクティブグレリン/総グレリン比の低下は、MSAの消化管蠕動低下に関与する因子であると考えられた。今後は,MSAにおけるグレリン分泌異常のメカニズムをさらに検討し、消化管一中枢神経クロストークの病的変化を明らかにする必要がある。
|