研究概要 |
背景:本研究における平成21年度および平成22年度の実績により、我々は、パーキンソン病(PD)と多系統萎縮症(MSA)では、腸音発生頻度とアクティブグレリン/総グレリン比の低下が共通して見られることを発見し、両疾患では消化管蠕動調節とグレリン分泌に関与する消化管神経機能が障害されている可能性を提起した。対象と方法:平成23年度においては、PDとMSAの剖検例における、消化管神経叢の病理検索に重点を置いて研究を進めた。PDでは、消化管神経叢におけるLewy小体の出現はすでに知られているため、MSAの消化管神経叢での封入体を新たに検索した。MSA4例を対象とし、Lewy小体についての陽性コントロールとしてPD1例、疾患コントロールとしてALS3例、コントロールとして非変性疾患3例の消化管剖検組織(ホルマリン固定後パラフィンブロック)を用い、検索部位は食道,胃,十二指腸,小腸,大腸とした。消化管の4μmの連続切片を作成し、H&E染色,ペリフェリン免疫染色,リン酸化アルファシヌクレインならびにニトロ化アルファシ女クレイン免疫染色を行った.ニトロ化アルファシヌクレイン免疫染色に用いた抗体は、1)SNCA (nitrated) monoclonal antibody, clone24.8 (MAB7378) Abnova,2)Nitrated alpha-synuclein (Syn514,SC-32279) SCB、3)Nitrated alpha/beta-synuclein (Syn12,sc-32278) SCB、である。結果と考察:MSA症例の消化管神経叢における異常構造物の検索においては、抗リン酸化アルファシヌクレイン抗体、および抗ニトロ化アルファシヌクレイン抗体に陽性を示す封入体は見られなかった。しかしMSAでは、ペリフェリン免疫染色にて、消化管神経節ニューロンの脱落、あるいは神経細胞の萎縮を反映すると考えられる生地組織の粗造化と空胞変化を認めた。この所見は、MSAでの消化管神経変性を反映したものと推測され、今後は、その定量的評価と進めるべきと考えられた。
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