研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者剖検例及びALSモデルマウス(end stage)の脊髄神経細胞には、すでに消失してしまったものと残存するものが存在し、同種の神経細胞でも変性の程度は異なると考えられる。TAR DNA-binding protein of 43kDa(TDP-43)の神経細胞核における発現レベルがALSにおける臨床経過と相関するメカニズムを明らかとし、TDP-43の発現が神経細胞の変性の程度に関連することを明らかとするために、ALSモデルマウスである変異SOD1(G93A)遺伝子トランスジェニックマウス(以下G93Aマウス)及び孤発型ALS剖検例の腰髄について、抗TDP-43抗体(rabbit polyclonal, Protein Tec)を用いて免疫組織学的染色を施行し、運動神経細胞である前角細胞を解析した。デジタルカメラを取り付けた光学顕微鏡を用いて画像を取り込み、その細胞核(N)、細胞体(C)の断面積を画像解析ソフト(VH-H1A5, Keyence)を用いて定量的に評価し、N/C比を算出した。各個体の腰髄における前角細胞においてそれぞれ、細胞核におけるTDP-43発現性と細胞変性の程度の関連性を解析した。統計学的解析が可能な数の前角細胞が残存するG93AマウスとALS症例において、細胞核におけるTDP-43の発現が高い前角細胞では発現の低い前角細胞よりも核及びN/C比が統計学的有意に大きく(p<0.05 ; Wilcoxon rank sum test)、一方では細胞体に有意差を認めないことが明らかとなった。さらに、TDP-43発現の高い神経細胞の多いG93Aマウス群では、TDP-43発現の低い神経細胞の多いG93Aマウス群よりも有意に神経細胞数が多く残存し(p<0.01 ; Wilcoxon rank sum test)、寿命が長いことが明らかとなった。(Beck., et al.現在論文投稿中) 異なる病因から生じるALSにおいて、運動神経細胞の核におけるTDP-43の発現は、神経細胞が長く生き延びるために重要であることが示唆された。
|