神経行動学的変化をより鋭敏にとらえるには、個体差が少なく、生得的に一定レベルの学習能力を有し、さらに外的要因の影響を受けにくい動物が必須である。我々はWistar系ラットを母系とし、80世代にわたり兄妹自然交配とSidman型電撃回避学習試験の繰り返しにより、同学習試験において生得的に高回避成績を有し、かつ個体差の少ない近交系のTokai High Avoider(THA)ラットを確立した。 今年度は交付申請書に記載した実験計画に基づき、このTHAラットを用いて化学物質として現在我が国で使用されており、残留農薬として基準値が定められているフェニトロチオンの次世代影響、特に中枢神経系の影響について検討した。フェニトロチオンの1日の通常可食量(0.007mg/kg/day)およびその10倍量を、妊娠9日目から離乳期の28日齢まで母ラットの背部にmini-osmotlc pumpを用いて注入して、仔ラット5週齢から神経行動学的試験を実施した。また、内分泌攪乱物質としての作用を検討するため、子宮、卵巣、精巣を採取した。 Sidman型電撃回避試験及び水迷路試験では、コントロール群と曝露群との間に差はみられなかったが、平衡感覚試験では高濃度曝露群で有意に低下がみられた。Open field試験では、低濃度、高濃度曝露群ともコントロール群に比べ立ち上がり回数が有意に多く、情動面で不安定であることが示唆された。 雌の仔ラットの子宮重量は濃度依存性に増加する傾向が見られ、雄の精巣も濃度依存性に増加した。 これらの結果から、残留有機リン系農薬フェニトロチオンは、妊娠ラットに曝露した場合、仔ラットの学習能には影響がみられなかったが、平衡感覚、情動面での影響が認められた。また、内分泌攪乱物質としての作用が示唆された。次年度以降これらの分子機構について解明する予定である。
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