昨年度は高学習能を有するTHAラットを用いて、代表的な残留農薬の一つであるフェニトロチオン曝露による次世代の中枢神経系発達に対する影響を、神経行動学的に調べた。その結果シドマン型電撃回避試験では学習能への影響はみられなかったが、落下試験では軽度の平衡感覚障害が観察された。また、情動性を観察するオープンフィールド試験において、興奮や探索行動の指標である立ち上がり回数がフェニトロチオン曝露群で有意に増加したことから、フェニトロチオン曝露により情動性に影響を及ぼすことが示唆された。また、濃度依存性にメスの子宮重量の増加がみられたことから、内分泌攪乱作用を示すことが明らかとなった。今年度は、フェニトロチオン曝露による次世代の高次脳機能への影響を分子レベルで解明するため、THAラットと母系であるWistarラットにおける脳での遺伝子発現、代謝産物の違いを検討した。遺伝子発現に関しては、両ラットそれぞれ4匹ずつ用いて海馬よりRNAを抽出し、アジレント社のマイクロアレイ解析を行った。代謝産物に関しては、慶応義塾大学先端生命科学研究所所長冨田教授と共同で、各々のラット8匹ずつの海馬、大脳皮質、肝臓、血清のメタボローム解析を、また糞便中の腸内細菌叢についてメタゲノム解析を行った。どちらも現在結果を解析中である。WistarラットとTHAラットを比較しTHAラットの特性を明らかにすることで、フェニトロチオンがTHAラットに特徴的な遺伝子ならびに代謝産物にどのような影響を及ぼしたのかを知る手掛かりになる。本年度の研究結果より明らかとなったTHAラットの特性をもとに、次年度はフェニトロチオン曝露によるこれらの遺伝子、代謝産物の変化を解析する予定である。
|