我々は、ERストレス関連蛋白CHOP(C/EBP homologous protein)欠損マウス(KO)を中心とした解析から、動脈硬化の発症・進展における小胞体ストレスと酸化ストレスの役割や相互作用を明らかにし、生体内のストレス応答を調節することによる動脈硬化に対する新規予防・治療法の可能性を探ることを目的に研究を進めてきた。 H22年度まで、CHOP欠損が個体の動脈硬化発症・進展を抑制することを明らかにしてきた。これまでの研究を基盤として、H23年度には骨髄移植を用いて、ドナーとレシピエントの組み合わせることで、全身にCHOPを有する、骨髄のみCHOPを有する、骨髄のみCHOPを欠損する、全身にCHOPを欠損する、の4群のマウスを作成した。これらのモデルにおいて、カフ傷害や高コレステロール負荷を行ったところ、動脈硬化発症には動脈壁におけるCHOPの存在が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。また野生型マウス(WT)とCHOP KOの腹腔マクロファージを用いて、小胞体ストレス負荷に対する応答を検討したところ、CHOP KOマクロファージでは炎症反応や酸化ストレス応答が抑制されていることが明らかとなった。また血管内皮と血管平滑筋の培養細胞において、siRNAを用いてCHOPをノックダウンしたところ、やはりCHOPの発現抑制によってERストレス応答、酸化ストレス反応、炎症反応が減弱していることが明らかとなった。 以上の結果から、CHOPはERストレス応答の結果、アポトーシスを導くというこれまで知られていた働きの他に、炎症反応や酸化ストレス反応を増幅するという役割を担っていることが明らかとなった。本研究で用いられたモデルは高コレステロール血症による動脈硬化性疾患やステント治療後の血管狭窄など、直接死因につながりうる疾患に相当することから、本研究で明らかになったCHOPを中心とした生体反応のクロストークの調節が、動脈硬化性疾患の新たな予防法・治療法の開発につながるものと期待される。 本研究成果は2011年に米学術誌Circulationに報告された。
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