研究概要 |
本研究目的の基盤となる膵β細胞でアシル化される蛋白の具体的同定に力をいれた。膵β細胞株(INS1)を用いて1D-PAGE,2D-PAGEゲルから、あるいは直接トリプシンにて消化後にLC-MS/MSを用いて解析し、パルミチル化蛋白質の網羅的解析及び同定を試みた。その結果複数個の蛋白の同定に成功した。これらの実験と平行して、同定された蛋白のインスリン分泌制御における意義を検討した。siRNAを用いた実験系では、現在までのところ「生理的なインスリン分泌制御」に直接関わっていることを示唆する蛋白の同定には至っていない。しかし、同定したもののまだ機能解析に取りかかれていない蛋白もあり、今後も解析を継続し、具体的なインスリン分泌の分子基盤と考えられる蛋白を見いだすべく実験を続けている。 インスリン分泌実験としては、我々が探索している新規アシル化蛋白がcAMPにより機能修飾をうける可能性を探るためインクレチン作動薬(DPP4阻害薬)をラットに慢性投与し、単離した膵島からのインスリン分泌の予備的な検討をおこなった。パルミチル化の抑制がcAMPのインスリン分泌増強効果を同時に抑制することが明らかとなり,両経路の機能的な関連が強く示唆された。また、高脂肪食負荷状態で認められるインスリン分泌亢進には膵β細胞内のアシル化蛋白を介する経路が重要であることを示唆する所見も得られた。糖尿病状態での変化を確認する予定である。 当初、セットアップを予定していたHPLC実験システムは、上記の蛋白の同定やインスリン分泌の実施に予定以上の労力がかかり、本年度は開始できなかった。次年度以降の課題である。
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