転写因子TFAP2B(マウスではAP2beta)は脂肪組織に比較的多く発現する遺伝子で、その遺伝子内のsingle nucleotide polymorphism (SNP)の頻度が肥満糖尿病患者において有意に高いこと、本遺伝子を培養脂肪細胞に過剩発現させると糖取り込みの亢進を介して脂肪細胞の肥大化が起こり、インスリン抵抗性が生じる、さらに、肥満脂肪組織において見られるアディポサイトカインの産生異常が生じることを報告した。しかし、同一SNPを有していても、必ずしもメタボリックシンドロームや糖尿病の発症に直接つながらないことから、なんらかの環境因子がTFAP2B発現量のみならず、その活性化を調節している可能性が示唆された。我々は現在までの検討によりPKCmuが摂食にて活性化され、AP2beta活性を調節することを見出し、環境応答遺伝子としてのAP2betaの役割を明らかにした。本年度は、個体レベルでのAP2beta遺伝子の役割について検討した。AP2beta遺伝子のホモ欠損マウスは、多胞性腎のう胞による腎不全により生後まもなく致死であることが報告されている。そこで、連携研究者である理化学研究所の前田士郎博士がヘテロ欠損マウスを作製し、ヘテロ欠損マウスの遺伝子型、各組織におけるAP2beta遺伝子発現、さらに、脂肪組織における発現とアディポサイトカイン発現について検討した。しかしながら、遺伝子型で判定したヘテロ欠損マウスにおいても、脂肪組織におけるAP2beta遺伝子発現の低下を認めず、何らかの機構でAP2beta発現低下を代償していることが示唆された。現在、各臓器におけるAP2beta発現を検討中である。
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