研究課題
[目的]近年、糖尿病における膵β細胞障害機序の一因として小胞体ストレス(ERS)が注目されている。一方、インクレチンのひとつであるGLP-1は、インスリン分泌の増強のみならず、膵β細胞障害に対し保護的に作用するという報告がある。本研究ではGLP-1シグナルの増強が、ERSによる膵β細胞障害に与える効果について検討した。[方法]Akitaマウスは、インスリン2遺伝子の点突然変異により異常インスリンが増加・蓄積し、ERSを介したアポトーシスにより膵β細胞障害を来たす自然発症糖尿病モデルマウスである。このAkitaマウスに、GLP-1アナログであるexendin-4(Ex-4)、およびインスリン非依存性に血糖を低下するフロリジンを2週齢から4週齢までの2週間腹腔内投与し、血糖値、ラ氏島の形態的変化および小胞体ストレスマーカー(CHOP)・アポトーシス(TUNEL)・細胞増殖能(PCNA)について、PBS投与群と組織学的、分子生物学的に比較検討した。また、Akitaマウスのβ細胞株を用いてin vitroで同様の検討を行った。[結果]Ex-4投与群は同等に血糖を下げたフロリジン群や、PBS投与群に比べて膵ラ氏島面積が保たれ、PCNA陽性細胞数は変化がなかったもののCHOP、 TUNEL陽性細胞はいずれも減少していた。定量的real time PCRを用いて検討した膵島でのCHOP mRNA発現量もEx-4投与群で有意に低値であった。[総括]GLP-1シグナルの増強は、主に小胞体ストレスによって惹起される膵β細胞アポトーシスを抑制して細胞保護効果を発揮することが示された。また、そのβ細胞保護効果は血糖とは独立した作用であることが示唆された。今後もβ細胞障害抑制機序の詳細に関して、さらなる組織学的・分子学的検討を継続する。
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