研究課題
本研究課題の目的は、第3のガス性メッセンジャーである硫化水素(H_2S)の産生酵素であるCystathionineγ-lyase (CSE)の誘導機序と、H_2Sの担う細胞機能との関連を膵B細胞と腎組織を用いて解析し、H_2S産生制御の意義を究明することである。平成22年度の研究で、膵B細胞における硫化水素の細胞保護作用が明らかになった。すなわち、硫化水素ドナーNaHSは酸化ストレスを軽減することにより、膵B細胞の細胞死を抑制することが明らかになった。一方、糖尿病状態における膵B細胞障害の一因とされる小胞体ストレスに対しては、NaHSは無効であった。マウス膵島におけるグルコースによる硫化水素産生酵素cystathionine-γ-lyase (CSE)の発現増加および、培養膵B細胞株MIN6細胞における小胞体Ca^<2+>ポンプ阻害薬thapsigarginによる顕著な発現誘導には、細胞内のCa^<2+>濃度の上昇が重要であることが、薬理学的実験からわかった。さらに細胞内Ca^<2+>上昇の下流には、Ca^<2+>/calmodulin依存性プロテインキナーゼおよびMAPキナーゼなどによるタンパク質のリン酸化が重要であることが明らかになった。また、、グルコースによりMIN6細胞の硫化水素含量の上昇が確認された。これらの結果から硫化水素は、膵B細胞においてグルコースにより誘導性に産生され、インスリン分泌を抑制するとともに、この細胞を酸化ストレスから守るものと考えられる。すなわち生体内では、糖尿病状態での血糖上昇に反応してCSEの誘導が起きて、その結果産生された硫化水素が、抗酸化作用を介して膵B細胞の糖毒性を回避する役割を果たすことが明らかになった。この結果は、私たちの提唱する、硫化水素の内因性ブレーキ(intrinsic brake)説を強く支持すると考えられる。さらに、腎臓でも硫化水素産生酵素の分布と、糖尿病状態における変化が明らかにされている。これらの結果から、本申請研究における本年度の研究計画はほぼ達成されたといえる。
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http://www.med.oita-u.ac.jp/pharmacology/subject.html