研究概要 |
関節炎・リウマチなどの炎症時には、感染した細菌由来の酸性物質や、周囲の細胞由来の乳酸によりpHが低下し、炎症応答が修飾される。細胞外のpH変化は種々の細胞機能を変化させるが、そのメカニズムの詳細は不明である。OGR1受容体ファミリー(OGR1,TDAG8,GPR4,G2A)には細胞外プロトン(pH)感知機構など従来のGPCRにはない新しい機能が存在することが我々を含む国内外のグループで明らかにされてきた。本研究では骨代謝・炎症応答を中心に、これらの機能制御におけるプロトン感知性受容体の役割とその作用機構を解析している。本年は、リウマチと関係が深い炎症性サイトカインの産生に対するOGR1受容体ファミリーの役割を中心に解析した。(1)マウスマクロファージにリポポリサッカライド(LPS)を作用させると炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)産生が増加するが、この応答は細胞外pH低下によって抑制される マクロファージではTDAG8、OGR1が多く発現している。そこで、TDAG8、OGR1受容体欠損マウス由来の細胞で同様の実験を行ったところ、細胞外pH低下による応答抑制はTDAG8欠損マウス由来のマクロファージでは作用が抑制されたが、OGR1欠損マウス由来の細胞では影響がなかった。(2)TDAG8の過剩発現細胞を用いた解析では細胞外pH低下はGsを介し、アデニル酸シクラーゼ/cAMP系を活性化する。そこで、cAMP誘導体、cAMPホスホジエステラーゼ阻害薬、アデニル酸シクラーゼを活性化するアゴニスト(プロスタグランジン、β-アドレナリンアゴニストなど)などでも同様にサイトカイン産生が抑制されるかどうかを調べたところ、cAMP増加がこの抑制作用を仲介していることが判明した。(3)Gs・に対するsiRNA、フロテインキナーゼA(PKA)阻害薬H89でも作用が抑制された。これらの結果から、細胞外pH低下による炎症性サイトカイン産生抑制はTDAG8/Gs/cAMP/PKAを介していると推定された。
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