抗動脈硬化性脂質であるスフィンゴシシ1-リン酸(S1P)はスフィンゴシンキナーゼの働きにより細胞内で産生され細胞外に放出される。私達はS1Pが血中では高密度リポ蛋白質(HDL)に濃縮していることを発見した。本研究では、血中S1PがHDL形成に必須であるABCA1トランスポーターを介して細胞外に放出されることを、ABCA1トランスポーター(ABCA1)やレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)の欠損マウスを適宜用い、個体レベル、細胞レベルで明らかにする。今年度は、ヒトの血液に含まれる新生HDLや成熟HDLとS1Pの存在様式について解析した。また、培養細胞を用いた再構成実験にてHDL-S1P複合体がどのように産生されるのかについて以下のように解析した。 (1)血液に含まれるリポ蛋白質とS1Pの解析:ヒト血漿HDLから成熟HDL(HDL2とHDL3)や新生HDL(preβ-HDL)を分離しS1Pの比活性を調べた。また、HDLと他のS1Pキャリア(アルブミンなど)との比較することで、HDLのS1Pがどの程度血球由来なのか比較した。これらの実験によって、成熟HDLに加えpreβ-HDL粒子にもS1Pが含まれており、新生HDLの形成を担うABCA1がHDL-S1P複合体の形成に関与していると推測された。また、血球由来と考えられるS1Pの蓄積はHDL画分ではなくリポ蛋白質除去(アルブミンなど)画分に顕著に見られた。 (2)インビトロでの再構成実験:リポ蛋白質産生細胞におけるHDL放出と連携した細胞外S1P蓄積の可能性をインビトロでの再構成実験で試みた。マクロファージの培養上清にApoAIとスフィンゴシンを添加し、S1P産生応答を試みた。しかし、スフィンゴ脂質の分解活性が高いためか、ApoAIのS1P放出活性への影響を検出できなかった。この実験は来年度も継続して検討する。
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