研究概要 |
抗動脈硬化性脂質であるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)はスフィンゴシンキナーゼの働きにより細胞内で産生され細胞外に放出される。私達はS1Pが血中では高密度リポ蛋白質(HDL)に濃縮していることを発見した。本研究では、血中S1PがHDL形成に必須であるABCA1トランスポーター(ABCA1)を介して細胞外に放出されることを、ABCA1やレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損マウスを適宜用いて明らかにすることを目的とした。 昨年度(21-22年度)までのマウスやヒトの血液に含まれるリポ蛋白質とS1Pの存在様式を解析した結果、ABCA1欠損マウスの血漿S1P含量が半減しており、LCAT欠損マウスの新生HDL画分にS1Pが認められ、血球由来S1Pの蓄積はHDL画分ではなくリポ蛋白質除去画分(アルブミン)に顕著に見られた。これらからABCA1が血漿HDL-S1Pの蓄積に重要であると推測された。今年度は、マウス由来のリポ蛋白質産生細胞(肝細胞やマクロファージ)を用いてHDL放出と連携した細胞外S1P蓄積を再構成実験で証明しようと試みた。しかし、スフィンゴ脂質の分解活性が高いためか、肝細胞やマクロファージにおけるHDL放出と連携した細胞外S1P蓄積は検出されなかった。 一方、本課題を遂行中にS1PがApoMを含むHDLに結合していることがChristoffersen等より報告された(PNAS,108,9613-9618,2011)。ApoMは新生HDLの安定性に必須であるらしく、本研究の解析結果(新生HD画分にS1Pが認められ、ABCA1欠損した場合の血漿S1P含量が半減している)と考え合わせると、血漿ApoM/HDL-S1P形成過程に連携したABCA1を介する新たな機構が考えられる。従って、ABCA1が血漿HDL-S1Pの蓄積、維持に重要であると推測される。
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