PCSK9 E32K変異の一般人に占める頻度が高く(約2%)、世界初の同変異ホモ接合体1例を申請時既に見出していた。本年度は、臨床的に家族性高コレステロール血症と診断された症例の原因遺伝子(LDL受容体、LDLRAP1、PCSK9)別の遺伝子解析を引き続き行った。その中で、発端者と血縁のない家系に別のPCSK9 E32K変異ホモ接合体を1例見出した。高LDLコレステロール血症(246tmng//dL)を認めたが、アキレス腱肥厚とともに臨床像は比較的軽症であった。 常染色体劣性高コレステロール血症患者は、無治療時総コレステロール値は500mg/dL程度と重症であり、アキレス腱を含め全身に著明な黄色腫を呈していた。従来の報告では、スタチンをはじめとするコレステロール低下剤への反応性は、LDL受容体遺伝子異常症ホモ接合体に比し良好とされるが、atorvastatin20mgによりコレステロール値はほぼ正常化した。本例を対象に、安定同位体を用いた代謝研究を行った。その結果、VLDLおよびIDL合成が亢進(正常比41%、44%)し、LDL異化が低下し(同-33%)、VLDLの直接異化が亢進していた。特に、VLDL直接異化の亢進は、LDL受容体を介するVLDL異化にLDLRAP1が必須ではないことを明らかとしたJonesらの動物実験の結果(JCI 2007)と符号する。興味深いことに、atorvastatin20mgの投与により、IDLとLDLの異化は正常化し、本症がスタチン感受性であることとも符合する。 PCSK9遺伝子異常症の血中PCSK9濃度測定系を開発する予定であったが、申請後に発売されたELISAキットで代用し、研究促進を試みる。 来年度は、PCSK9遺伝子異常症を対象に安定同位体を用いた代謝研究を行い、同変異の病態を明確とする予定である。
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