ニコチン酸の抗高脂血症薬としての作用が肝細胞でのNAD上昇によるSirt活性化を介する可能性を明らかにする目的で、NAPRT(Nicotinic acid phosphoribosyltransferase)を組み込んだネオマイシン耐性ベクターをHepG2細胞にトランスフェクトしG418耐性株を得た。これらのうち、培養液に0.02mMのニコチン酸を添加して細胞のNADが2倍以上に上昇する株を選択した。これらの細胞株で添加するニコチン酸の濃度、及び添加時間を検討したところ、高濃度ではむしろNAD上昇効果が低下する傾向にあること、添加後数時間以内にその上昇効果が現れることが明らかになった。細胞内NAD濃度が約2倍に上昇する培養条件下でABCA1、およびCYP7AのmRNA発現の変動をRT-PCRにて検討したが、著明な変化は認められなかった。以上の結果よりニコチン酸の抗高脂血症薬としての作用が肝細胞でのNAD上昇を介してコレステロール代謝関連遺伝子の転写を制御する可能性は、HepG2細胞を用いた系では直接証明できなかった。その原因として、仮説が正しくない可能性の他に、用いたHepG2細胞が肝細胞としての性質を十分に保持していないことがあげられる。この点から次年度以降の計画にあるラット肝臓初代培養細胞あるいはラット個体を用いてABCA1、およびCYP7A発現におよぼすニコチン酸の効果を検討する実験が必要となる。
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