ニコチン酸の抗高脂血症薬としての作用機序に、肝細胞におけるNAD上昇によるSirt活性化が関与しているという仮説の当否を明らかにする目的で、細胞環境の設定を、昨年度の実験でこの仮説が成立しないことが明らかになったHepG2細胞のNAPRT安定発現株から、ラット初代培養肝細胞および肝細胞ではないがコレステロール代謝の実験に用いいられるヒト腸粘膜上皮細胞Caco-2に移して、さらにこの仮説の当否を検討した。 (1)Caco-2細胞に及ぼすニコチン酸の影響:Caco-2細胞にはNAPRT mRNA発現があったが、酵素活性はHela細胞の約1/5であった。ニコチン酸添加6時間後のNAI)上昇はほとんど認められなかった。NAPRT活性を上昇させるべく安定発現系の樹立を試みたが高い活性を有する細胞株を現在までに得ることができていない。 (2)ラット初代培養肝細胞でのHDL-C代謝関連タンパク質のニコチン霞による発現増加:ニコチン酸添加6時間後のNAD増加が検出されなかった。その理由として、初代培養細胞を調製するために添加される10mMニコチンアミド中にニコチン酸の混入があること、ニコチンアミドからニコチン酸を生ずる反応を触媒する可能性のあるコリスマターゼの発現が高いことが考えられた。またニコチン酸添加によってABCA1の発現も変化しなかった。 以上の結果より培養細胞系で仮説の当否を決定することができる条件を整えることが困難であるので、より直接的に、個体レベルでのニコチン酸投与が肝臓のHDL-C代謝関連タンパク質発現を上昇させるか否かについての検討を行う必要がある。
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