ニコチン酸の抗高脂血症薬としての作用機序に、肝細胞におけるNAD上昇によるSirt活性化が関与しているという仮説の当否を明らかにする目的で、マウス肝臓におけるHDL-C代謝関連タンパク質遺伝子の発現が、ニコチン酸投与によって変化するか否かの検討を試みた。 (1)100mg/kgのニコチン酸を腹腔内に投与したマウスにおいて血中ニコチン酸レベルならびに肝臓抽出液中のNAD量を質量分析にて測定し、これらが投与4時間後にはすでに上昇しており8時間後にはその上昇はさらに著名となっていることを確認した。 (2)(1)の条件下で、投与8時間後のマウス肝臓におけるニコチン酸投与の有無によるHDL-C代謝関連タンパク質遺伝子の発現の変化を、microarray、RT-PCRにて検討したところserum amyloid Aなど炎症関連タンパク質遺伝子の発現の増加が認められたが、HDL-C代謝関連タンパク質遺伝子の発現に顕著な変化は認められなかった。 今回の実験で、ニコチン酸を投与して肝臓NADが増加することをマウス個体で証明できた。このことは今後ニコチン酸の個体レベルでの役割を検討する上で重要な進歩である。しかしながら目的遺伝子群の変化を検出できなかった。その理由として、ニコチン酸が抗高脂血症薬として作用するために十分な期間でなかった可能性、炎症性タンパク質遺伝子の変化がニコチン酸腹腔内投与に対する反応である可能性等があげられる。
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