慢性炎症や動脈硬化症の発症・進展場面でのHDL関連分子の役割解明を目的に、「ABCA1によるHDL新生」ならびに「ABCA7による食作用」の活性制御に焦点を定めた研究を行った。 インスリンのABCA1依存性HDL新生への影響を調べ、インスリンが2つのメカニズムによりapoA-I依存性HDL新生を抑制することを明らかにした。1つはPI3キナーゼ活性化がABCA1タンパク質分解を促進するため、もう1つはABCA1がインスリンレセプターによるリン酸化を受け、タンパク質量の変化なしにHDL放出速度低下を生じるためであった。さらに、ABCA1上のY1206を後者の機序に関与する特異的なリン酸化部位と同定し、これの変異によるインスリンの効果消失も証明した。ラットインスリン抵抗性モデルでも、高インスリン血症は血糖値や体重の影響なしにABCA1の比活性を抑制し、HDLの生合成を低下させる事が確認された。以上よりインスリンの新しい作用として、ABCA1の分解促進とHDL新生能の比活性低下が示された。 ABCA1によるHDL新生制御は、インスリン抵抗性・2型糖尿病患者での心血管イベントの予防・治療にも繋がるものと期待される。 また、コレステロール合成阻害剤スタチンがABCA7を介した食作用へ与える効果を調べ、スタチンがマクロファージのABCA7発現と食作用活性をともに増強させることを明らかにした。マウス個体へのスタチン投与により、腹腔マクロファージのABCA7タンパク質発現もin vivoでの食作用活性も上昇した。一方、ABCA7ノックアウトマウスではスタチン投与による食作用活性化はなかった。以上より、細胞のステロール変化に伴い、ABCA7を介した食作用活性の変わることがin vitroとin vivoの両方で明らかとなった。これは同時に、スタチンのpleiotropic effectとされてきた効果の中には、SREBP2を介したABCA7の機能が含まれる可能性をも示している。
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