研究概要 |
前立腺肥大ならびに前立腺癌は高齢者のQOLに大きな影響をおよぼす増殖性疾患である。本研究では性ホルモンなどの内分泌因子によるシグナル伝達からユビキチン化を介した下流シグナルを同定することで、前立腺疾患発症へと結びつくKey regulatorを同定し、新たな診断マーカーならびに治療標的の同定を試みる。申請者らは今までに性ホルモン応答遺伝子であるEfp/TRIM25がユビキチン化を介して癌細胞増殖やサイトカイン産生を制御することを見出した(Nature 2002 ; 417 : 871-875, Nature 2007 ; 446 : 916-920)。今回、申請者らはEfpの阻害因子としてA型インフルエンザウイルスの構成タンパクであるNS1を同定した。NS1はEfpと直接結合することで、その基質タンパクであるRIG-Iとの結合、ユビキチン化を阻害することで自然免疫機構を抑制し、インフルエンザウイルスの増殖を誘導する分子機構を解明した(Cell Host Microbe 2009 ; 5 : 439-449)。またEfpと同じTRIMファミリー蛋白の一つであるTerf/TRIM17が自己ユビキチン化を誘導すること、ならびにTRIM44と結合することで、自己ユビキチン化が抑制され、TRIM17蛋白が安定化することを明らかにした(Biochem Biophys Res Commun 2009 ; 383 : 263-268)。さらには内分泌ホルモンとして知られるグルココルチコイド応答遺伝子をマイクロアレイ法により探索し、その結果TRIMファミリー蛋白であるTRIM63を同定した。同時にTRIM63は骨肉腫細胞株において分化ならびに増殖制御を行っていることを見出した(Endocr J in press)。今後、TRIMファミリー蛋白のシグナル伝達ネットワークと疾患発症との関連を解明することで、新たな前立腺疾患治療標的の同定が期待される。
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