前立腺肥大ならびに前立腺癌は高齢者のQOLに大きな影響をおよぼす増殖性疾患である。本研究では性ホルモンなどの内分泌因子によるシグナル伝達からユビキチン化を介した下流シグナルを同定することで、前立腺疾患発症へと結びつくKey regulatorを同定し、新たな診断マーカーならびに治療標的の同定を試みる。今回、申請者らは前立腺癌の発症や進展において重要な役割をはたす性ホルモンであるアンドロゲンから、その受容体であるアンドロゲン受容体(AR)を介したシグナルに焦点を当てて研究を行った。その中で申請者らはCAGE法ならびにChIP-chip法といった最新の方法により前立腺癌細胞におけるヒトゲノム上でのアンドロゲン-ARシグナルに応答する遺伝子を網羅的に同定した(Oncogene 2011;30:619-630)。さらに前立腺癌においてアンドロゲン応答するmicroRNAとしてmiR-148aを新たに同定した(Prostate Cancer Prostatic Dis 2010;13:356-361)。申請者らはmiR-148aがCAND1というユビキチン分解酵素(SCF複合体蛋白質)を負に制御する遺伝子の発現制御を行うことで、前立腺癌細胞の増殖を制御する分子機構を見出した。さらに転写因子であるOct1がARと協調的に作用し前立腺癌細胞の増殖を制御している分子機構を臨床サンプルならびに細胞実験により明らかにした(Int J Cancer in press)。今後、アンドロゲンからmiR148aならびにCAND1発現制御を介したユビキチン化制御システムのような、性ホルモンを介したユビキチン化蛋白分解シグナルやその他のシグナル伝達ネットワークと疾患発症との関連を解明することで、新たな前立腺疾患治療標的の同定が期待される。
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