研究概要 |
前立腺肥大ならびに前立腺癌は高齢者のQOLに大きな影響をおよぼす増殖性疾患である。本研究では性ホルモンなどの内分泌因子によるシグナル伝達からユビキチン化を介した下流シグナルを探索することで、前立腺疾患発症へと結びつくKey regulatorを同定し、新たな診断マーカーならびに治療標的の同定を試みる。今回、申請者らは前立腺癌の発症や進展において重要な役割をはたす性ホルモンであるアンドロゲンから、その受容体であるアンドロゲン受容体(AR)を介したシグナルに焦点を当てて研究を行った。その中で申請者らはCAGE法ならびにChIP-chip法といった最新の方法により前立腺癌細胞におけるヒトゲノム上でのアンドロゲン-ARシグナルに応答する遺伝子を網羅的に同定した。その中から各遺伝子の機能検索を行い、前立腺癌の発症、進展に関与するアンドロゲン応答遺伝子を同定した。本検討により申請者らはARFGAP3がPaxillinと協調して、前立腺癌細胞の増殖と遊走を制御する分子機構を見出した(Int J Cancer130,2240-2248,2012)。次にTACC2が前立腺癌細胞の細胞周期進行を誘導し、増殖制御を行う分子機構を見出した。また、臨床サンプルならびに動物モデルを用い、TACC2が前立腺癌の予後を規定する重要な診断マーカーであり、治療標的遺伝子としても重要であることを示した(Mol Endocrinol in press)。さらに転写因子であるOct1がARと協調的に作用し前立腺癌細胞の増殖を制御している分子機構を臨床サンプルならびに細胞実験により明らかにした(Int J Cancer130,1021-1028,2012)。以上のように本研究期間において、アンドロゲン応答遺伝子を網羅的に探索する中で、臨床診断マーカーならびに治療標的として重要な因子を複数同定した。今後、これら遺伝子を用いた臨床応用が期待される。
|