多様な生理活性を示すPituitary Adenylate Cyclase Activating Polypeptide (PACAP)は、精巣に高濃度で存在し、精子形成に関与することが示唆されている。しかしながら、PACAPの精巣における生合成、分泌動態についてはほとんど解明されていない。そこで、申請者は、精巣におけるPACAPの生合成及び機能発現を明らかにするため、今年度以下の検討を行った。PACAP遺伝子の上流域の精巣特異的転写制御領域の性状解析に関して、精巣特異的転写エレメント結合因子の精製及び構造解析であるが、前年度までに同定したPARP1とT1LRF9に加えて、細胞の核抽出蛋白より新たに3つの未同定の蛋白を分離精製し、それぞれ質量分析により解析を進め、年度内に結果は得られていないが、今後最終確認する。PACAP特異的受容体であるPAC1遺伝子の精巣における発現調節の比較解析については、まずPAC1遺伝子の5'上流域に存在する転写調節領域の性状解析を行い、前年度より5'上流域に存在するSp1エレメントが、PAC1遺伝子の正の調節に関わるだけでなく、ERストレスや虚血におけるPAC1の負の発現調節においても重要な役割を担う可能性が示唆されたが、今年度そのメカニズムに関して興味ある知見が得られた。即ち細胞にストレスが加わることにより、トランスグルタミナーゼ2が活性化され核内に移行すると、様々な蛋白の架橋を促進するが、その際Sp1も架橋されることにより、Sp1エレメントに結合できなくなり、その結果遺伝子発現が抑制される。このことは、ERストレス負荷時に、トランスグルタミナーゼ2の核内移行が促進され、ERストレス阻害薬であるSalburinalによって、その移行が抑制されること。またTG2の阻害薬であるCystamineによって、ストレスにより抑制されるPAC1の転写活性が回復することから明らかとなった。これらの知見は精巣におけるPAC1の発現調節の解明に寄与することが期待される。
|