研究概要 |
発症直後に死亡した劇症1型糖尿病患者3名の剖検膵組織を用いて、免疫組織化学により、膵組織におけるToll-like receptor(TLR)発現について検討した。用いた一次抗体は以下のとおりである。goatanti-human TLR3 antibody(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz), goat anti-human TLR7 antibody (Santa Cruz), monoclonal mouse anti-human TLR9 antibody(26C593, Imgenex).検討した3名すべての膵組織においてTLR3, TLR7, TLR9の発現を認めた。正常コントロールではこれらの蛋白の発現は認めなかった。これら3つのTLRサブタイプのうち、ウイルス感染との関連が最も深いと考えられるTLR3について、その発現細胞を検討した。形態学的な検討から、浸潤細胞に発現していると考えられたため、Tリンパ球およびマクロファージとの二重染色を行ったところ、マクロファージの84.7±7.0%およびTリンパ球の62.7±32.3%にその発現を認めた。 次に、同じ組織を用い、エンテロウイルスの共通塩基配列部分をプローブとし、in situ hybridization法を用いて、直接ウイルスの同定を試みた。3例中1例において、膵β細胞が残存している膵島の膵島細胞にエンテロウイルスが発現していることが明らかになった。 以上の結果から、劇症1型糖尿病の膵β細胞傷害機構には、一部の症例では膵β細胞へのエンテロウイルス感染が引き金となり、TLR3を介したinnate immunityの活性化が関与していることが示唆された。同時に、引き金となっているウイルスが他にも存在する可能性も考えられた。
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