肥満は、高血圧・心血管障害・糖尿病などの生活習慣病を頻発させ、その治療と予防は医学的・社会的に大きな課題である。摂食・エネルギー代謝調節の分子レベルでの病態の解明は、近年急速に進んでいる分野であり、肥満のみならずそれに起因する生活習慣病を総合的に治療する新しい治療法の開発につながるものと期待される。 摂食調節・生活習慣病に関連する新規ペプチドの同定を目的として、脳視床下部、脂肪組織、心血管系に発現するオーファン受容体を選別し、哺乳動物培養細胞に導入し安定発現細胞株を確立した。ラットおよびブタの各組織抽出物をオーファン受容体発現細胞に添加し、細胞内シグナル変化を指標としてリガンドスクリーニングを行った結果、ブタ視床下部において摂食・エネルギー代謝に関与すると想定される1つのオーファン受容体に対するアゴニスト活性を検出した。現在、活性物質の単離・精製を進めている。また、従来の細胞内カルシウム濃度上昇やcAMP濃度変化を指標にする検出系に加え、リガンドが細胞に作用した際に生ずる細胞の微小形態変化に伴らインピーダンス変化を指標としてスクリーニングを行う系を確立した。さらに、オーファン受容体を用いる以外のアッセイ系として、メタボリックシンドロームの発症基盤として重要な脂肪細胞機能を制御する新規因子のスクリーニング法を、3T3-L1細胞およびラット脂肪組織の初代培養細胞を用いて確立し、探索を開始した。また、ラット脳および小腸より最近単離した新規ペプチドに関して、生理機能の解析を進めた結果、脳室内投与により、下垂体からのプロラクチン分泌を強力に促進する作用を有することが判明した。このペプチドに関しては、その欠損マウスの作製も進めた。
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