エネルギー代謝の恒常性維持に中枢神経系と肝臓の臓器間相互作用は重要な役割を果たし、主に迷走神経がその情報伝達経路を担っている。一方、肝損傷時の修復過程や肝細胞増殖制御における中枢神経系の関与については不明である。我々は、末梢性グレリンが迷走神経系を介して中枢神経系にそのシグナルを伝達し、肝細胞増殖調節や肝組織損傷時の修復制御に関与することを新たに見出した。今年度の本研究において、ジメチルニトロサミンによる薬剤性肝硬変モデルラットを作製し、グレリン末梢投与による肝再生促進作用および抗線維化作用を検討した。得られた結果は、(1)グレリン投与により肝細胞増殖能が促進された、(2)肝組織の線維化が抑制された、(3)肝硬変による致死率の改善が認められた、である。これらの作用は、主に肝細胞の増殖促進による効果であり、迷走神経系を介して発現したものと思われる。また、ジメチルニトロサミン投与による摂食量の抑制をグレリンは軽減した。以上より、この薬剤性肝硬変モデルラットにおいて、グレリンは中枢神経系を介して肝細胞増殖作用を発揮するとともに摂食量促進によるエネルギー代謝の改善によって、肝機能改善に関与しているものと考えられる。
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