本研究においては、正常及び変異FLT3分子が小胞体(ER)からゴルジネットワーク(GN)を経て糖鎖修飾を受け、細胞表面へ発現される分子機構の相違と、その結果生じている変異FLT3分子の細胞内局在部位の同定をリン酸化状態と活性化シグナル伝達機構との関連性を考慮する中で明らかにし、糖鎖修飾、細胞内局在の相違に基づき、変異FLT3分子に対するキナーゼ阻害剤の標的効果を増強する併用療法のコンセプトを確立することを目的としている。今年度は下記の研究成果を得た。 1.正常及び変異FLT3分子を細胞内で区別するために、それぞれのC末端にMYCまたはFLAGタグを付加した発現ベクターを構築し、これにより正常FLT3、変異FLT3分子単独および正常・変異FLT3分子共発現細胞を樹立した。更に細胞外領域を欠失させた変異FLT3分子単独および、正常FLT3分子と細胞外領域欠失変異FLT3分子の共発現細胞を樹立した。 2.また、骨髄ニッチにおける細胞外からの持続的なリガンド(FL)刺激による影響を評価するために、膜結合型FL発現Cos7細胞を樹立した。 3.可溶性のFL存在下では、正常および変異FLT3共発現細胞に対するFLT3阻害剤による増殖抑制効果は減弱されるが、膜結合型FL発現Cos7細胞上での共培養系では、この阻害抑制効果がより顕著にみとめられるとともに、FLT3に対して選択性の高い阻害剤ほどその抑制が強いことが明らかとなった。 4.FL刺激による阻害剤の増殖阻害抑制効果は、正常FLT3分子を介しており、その際には正常FLT3分子と変異FLT3分子のhetero-dimerは形成されていないことを明らかにした。 上記の結果により、変異FLT3分子は主として細胞内で活性化し、FL刺激の影響が少なく、正常FLT3分子のリガンド刺激に基づく活性化シグナルが阻害剤の効果減弱に関与していることが明らかとなった。この活性化シグナルは糖鎖修飾を阻害により回避されることから、詳細な局在と活性化機構との関係について更に検討を進めている。
|