研究課題
慢性骨髄性白血病(CML)はp210 BCR-ABL1遺伝子を発現した造血幹細胞のクローン性疾患であるにもかかわらず、末梢血のT細胞あるいはB細胞にはp210 BCR-ABL1は検出されない。その病態を解明するため、p210 BCR-ABL1の造血幹細胞からリンパ球系細胞への分化に対する作用を検討した。ヒト臍帯血CD34^+細胞をサイトカインthrombopoietin、c-kit ligand、FLT3 ligandとともにヒト骨髄由来ストローマ細胞上で培養した。p210 BCR-ABL1が導入されていないCD34^+細胞からはCD19^+ B細胞とCD7^+ T細胞が産生されたが、p210 BCR-ABL1が導入されたCD34^+細胞の培養ではCD19^+細胞とCD7^+細胞は検出されなかった。CMLではリンパ球系細胞が疾患に巻き込まれていないのは、p210 BCR-ABL1による造血幹細胞のリンパ球への分化能の抑制が関わっていることが示唆された。B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)においては、p210 BCR-ABL1あるいはp190 BCR-ABL1が認められるが、いずれの遺伝子の検出例においても多くはIkaros遺伝子の異常(dominant negative isoform;IK6)を伴っている。そこで、p210 BCR-ABL1あるいはp190 BCR-ABL1とIK6のB-ALL発症における協調作用をヒト臍帯血CD34^+細胞にこれらの遺伝子を導入することで検討した。p210 BCR-ABL1あるいはp190 BCR-ABL1とIK6を導入されたCD34^+細胞はそれぞれの遺伝子を単独で導入したCD34^+細胞に比べ、増殖能が亢進していたが、B-ALL様の細胞は見られなかった。BCR-ABL1^+ B-ALLの発症には他の付加的な因子が必要であると思われる。
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