造血幹細胞(HSC)の老化やがん化の予防には、長期間の休止(GO)期を持つ増殖特性や、酸化ストレス防御機構が重要であるとされる。本研究では、HSCにおいて、酸化ストレス防御機構がストレスの軽減に働くとともに、細胞の生存の維持や増殖制御に直接的に関わることを示し、この機構が老化やがん化の抑制に重要であることを明らかにする。22年度には、活性酸素除去に働くセレノシステインを欠損するマウス(セレノシステインt-RNA遺伝子ノックアウトマウスTrsp^<-/->)、および、酸化ストレス除去と解毒作用に重要な転写因子であるNrf2 (NF-E2 related factor 2)とセレノシステインの二重欠損マウスを解析し、これらのマウスでは貧血が見られることを示し、造血系の維持にはこれらの防御系が重要であることを報告した(論文文献参照)。さらに、短期間の造血を指示するHSC (ST-HSC)と永続的な造血に関わるHSC (LT-HSC)においてNrf2とセレノシステインの酸化ストレス防御系が異なった作用を持つ可能性を示唆する結果を得た。一方、HSCの維持に必須である転写因子GATA2について、ミトコンドリアの制御と細胞死に関わるBCL-XLと細胞周期制御に重要なG1期サイクリンがその直接の標的であること、GATA2の発現はリン酸化を介した蛋白質分解系によって大きく変動することを報告した(学会発表参照)。酸化ストレスは蛋白質のリン酸化状態を変化させることから、23年度には酸化ストレスによる転写因子のリン酸化が標的遺伝子の制御に与える影響について検討する予定である。
|