研究課題
酸化ストレスを制御するNrf2、造血幹細胞の増殖や維持に必須のGATA2の研究を基盤として、増殖制御と酸化ストレス制御の接点を見出すべく研究を行った。Nrf2とセレノシステインの二重欠損マウスでは、成熟赤血球寿命の短縮や、化学療法剤による骨髄抑制からの回復の遅れなどが認められた(Kawatani Blood 2011)。そこで、Nrf2欠損マウスの骨髄細胞を用いて、競合的骨髄移植実験、限界希釈法を用いた骨髄移植実験を行ったところ、移植後30日以内の生着率が低下し、4か月時には生着率の低下は認められなかった(未発表)。また、代謝解析から、Nrf2とエネルギー産生系との関係を示す結果が得られた。一方、GATA2は、細胞増殖に関わるCyclinE1,CyclinD2の遺伝子を直接制御し、ミトコンドリアの制御に関わるBCL-2,BCL-XL,Lrpprc遺伝子の制御領域に結合する(Koga Blood 2007, ASH 2009、未発表)。GATA2はCyclin/Cdk複合体によりリン酸化され、ユビキチンープロテアソーム系により細胞周期特異的に分解される。その結果、GATA2発現は細胞周期により大きく変動し、これがBCL-XL遺伝子へのGATA2結合にも細胞周期変動をもたらした(未発表)。また、細胞周期因子の分解を制御する因子の1つがGATA2の分解にも関与することを示す結果を得た。短期的な骨髄再建に関わる幹細胞は増殖期の細胞であり、一方、長期的骨髄再建に関わる幹細胞の多くは細胞周期の休止期にいる。上記の結果は、酸化ストレス制御に関わるNrf2が、増殖の盛んな幹細胞を保護しており、また、造血幹細胞の増殖を制御するGATA2が、同時にミトコンドリア機能に関しても細胞周期特異的な制御を行っている可能性を示唆するものである。近年、細胞増殖時にはエネルギー産生系に変化が起き、電子伝達系の不均衡による酸化ストレスの影響を回避するとの報告がある。本研究課題の結果は、Nrf2やGATA2による造血幹細胞の制御にもこのような経路が関わる可能性を示しており、今後も研究を進める予定である。
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