造血器悪性腫瘍には急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)など様々な白血病類縁疾患が存在し、いずれも造血幹細胞あるいは近傍の幼弱前駆細胞のがん化により生じると考えられている。本研究において我々はBlast BankのAML検体の中から、核型や治療反応性などの臨床情報が整備された99例からなる「標準検体セット」を選び出し、これらに対して網羅的なゲノミクス解析を行い、新たながん遺伝子の同定を目指すと共に、真に治療反応性にリンクする遺伝子の同定を試みることを目的とした。当該年度は、遺伝子配列異常を精査し、白血病の原因となる遺伝子変異を明らかにした。我々は米国Perlegen社と共同で900万塩基対の配列を決定可能な世界最大のDNAシークエンスアレイを開発し細胞増殖関連遺伝子5600種類についてcoding exonの配列解析を行った。具体的にはAML標準検体セットよりゲノムDNAを採取し、PCRで増幅した後、ビオチン標識したDNA断片を米国Perlegen社と共同開発したDNAシークエンスアレイにハイブリダイズした。その結果、新たな活性型チロシンキナーゼをコードする変異と、エピジェネティク制御に極めて重要な働きを示すタンパク質の活性失活型変異を含む11種類の遺伝子変異が同定された。活性型チロシンキナーゼをコードするレトロウイルスを作成し、致死量放射線照射したマウスに骨髄移植を試みたところ骨髄再構築に成功し、レシピエントマウスではALLを発症した。このようにして明らかとなった配列異常を有する遺伝子は、白血病発症における重要な原因遺伝子である可能性が示唆された。
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