本研究は、いまだ治癒の難しい多発性骨髄腫の治療成績の向上を目的に、これまでにない骨髄腫前駆細胞をターゲットとした新たな分子標的療法を開発することである。 骨髄腫前駆細胞の同定に関して種々検討した結果、in vitroおよびin vivoにおいてclonogenic骨髄腫細胞はCD138陰性の形質細胞分画の中に存在することが明らかになったが、詳細に関しては今後の検討が必要である。一般にがん幹細胞の増殖には転写因子NF-κBが重要な役割を果たすことが知られているため、われわれの同定した新規NF-κB阻害剤1'-acetoxychavicol acetate(ACA)を構造展開して得られたさらに強力なNF-κB阻害活性を有するTM233の骨髄腫細胞への影響とその作用機構の詳細について検討した。TM233は骨髄腫細胞の増殖を抑制し、細胞死を誘導した。NF-κB阻害の他に骨髄腫細胞の増殖に必須なIL-6シグナル伝達経路を阻害することを見いだした。すなわち、TM233はIL-6受容体下流のJAK2およびSTAT3のリン酸化を抑制し、IL-6のシグナルをブロックすることで骨髄腫細胞の細胞死を誘導することを見いだした。 さらに、TM233は実臨床でも用いられているプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブ耐性細胞に対しても、その増殖を抑制し細胞死を誘導した。現在、臨床的にはボルテゾミブによる末梢神経障害などの有害事象や耐性化が問題になっており、TM233は新たなNF-KB阻害剤として今後の臨床応用が期待される。今後は、さらに骨髄腫前駆細胞に対するTM233の直接的な効果を検証する予定である。
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