治療抵抗性のNK細胞腫瘍に対して特異的な抗腫瘍効果を発揮するL-asparaginase(L-ASP)は、rapamycinと同様にp70 S6 kinaseおよび4E-BP1のリン酸化を抑制するなどmTOR経路を阻害するのに加えて、eIF4Eの発現量を低下させることをこれまでに明らかにした。L-ASPでNK腫瘍細胞株と同様の変化を起こすJurkat細胞において更に解析を行ったところ、L-ASP処理によって培養液中のアスパラギンのみでなくグルタミンが枯渇し、これにより細胞内のグルタミンおよびグルタミン酸の濃度も著明に低下した。実際にJurkat細胞において種々の薬剤によりグルタミンからTCAサイクルへの炭素骨格分子の供給の経路を遮断するとアポトーシスが引き起こされたことから、Jurkat細胞はその増殖のみならず生存に関してもグルタミン依存性と考えられた。L-ASP処理後のJurkat細胞内ではTCAサイクルを構成するalpha-ケトグルタル酸、スクシニル酸、オギザロ酢酸が枯渇していること、細胞内に入って直接にalpha-ケトグルタル酸に変換されるdimethyl2-ketoglutarateを併用するとL-ASPの殺細胞効果が減弱することから、L-ASPがグルタミン欠乏を介して細胞内のTCAサイクルの機能不全を起こしてアポトーシスを誘発することが示唆された。更にL-ASP処理後の翻訳開始因子群の蛋白量を調べたところeIF4EのみならずeIF4B、eIF4G、eIF4Hの蛋白量、リン酸化も低下することが明らかとなった。L-ASPの作用は少なくともその一部がTCAサイクルの構成分子の枯渇に関与していることが考えられ、これが翻訳開始因子群の蛋白量およびリン酸化の低下につながる可能性を検討中である。
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