研究概要 |
マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma, MCL)は、進行性かつ治療抵抗性で最も予後不良な悪性リンパ腫である。骨髄や消化管など複数のリンパ節外に浸潤し、進行した病期で見つかる比率が高い。この原因として、悪性細胞周辺の微小環境(ニッチ)が重要な役割を果たしていると仮説し、ストローマとMCL細胞との細胞間相互作用を解析した。申請者は、ストローマ細胞とリンパ腫細胞を共培養することで、ストローマ細胞ニッチモデルの樹立に成功した。また、10種類のMCL細胞株においてPTK阻害剤による細胞生存能を検討した。PI3K/AKTに対する阻害剤LY294002によってアポトーシスが誘導された(IC50<10μM)。特に全細胞株でPDK1の恒常的リン酸化を認め、PDK阻害剤OSU03012によって細胞増殖は完全に抑制され(IC50<2μM)、MCL細胞の生存にとってPI3K/PDK1/AKTシグナル伝達系が重要な役割を担っていると考えられた。一方、MCL細胞株をストローマ細胞と共培養し、これら阻害剤を作用させるとアポトーシスは抑制され細胞生存は維持された。さらに、患者末梢血からMCL細胞を分離しストローマ細胞と共培養すると、単培養時と比較し有意に生存が延長された。さらに単培養時に容易に細胞死を誘導したPI3K/PDK1/AKT阻害剤を作用させても、細胞生存は維持された。これらの結果から、MCL細胞は単独では存在せず、線維芽細胞や血管内皮細胞などのいわゆるストローマ細胞と共存し、ストローマが薬剤の細胞傷害活性を阻害することが明らかとなった。ストローマによる細胞接着並びに液性因子を介した生存シグナル伝達分子が細胞の増殖やアポトーシスの抑制に関与していることが示唆された。
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