研究課題
他の移植ソースと比較して頻度は低いものの、臍帯血移植(CBT)でも重症GVHD例は存在し、一次治療にはステロイドが使用される。また、カルシニューリン阻害剤の継続投与が困難な例ではGVHD予防目的でステロイドが使用される場合もある。我々は、まず、東大医科研病院でのCBT例に対する移植後早期のステロイド投与について後方視的に検討した。1998年8月~2010年4月の間に、骨髄破壊的前処置とCsA+sMTXによるGVHD予防を用いた16~55歳の初回単一臍帯血移植を受けた158例について解析した。連続した5日間以上のステロイド投与をおこなった群を投与群、それ以外を未投与群と定義し、投与群は、予防群(CsAの継続投与が困難な例にするGVHD予防目的のステロイド投与)と治療群(CsA投与中に発症したGVHDにするステロイド投与)とに区別した。CBT後100日目までに158例中46例(29%)にステロイドが投与された。その中で、46例中26例がGVHD予防目的、20例が治療目的だった。また、5年全生存率は未投与群と治療群でほぼ同等(79%vs78%)、予防群で有意に不良(40%)だった。さらに、予防群の死亡原因ではGVHDが最も多く、免疫抑制が不十分である可能性が示唆された。一方、臍帯血移植後に重症GVHDを発症した患者ではGVHDの重症化に伴い、TNF-α、Fasリガンド、可溶性IL2受容体の血中濃度が上昇しており、α2PIプラスミン複合体、マトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)の血中濃度上昇の他、血液線維素溶解系(線溶系)の亢進を示唆するデータが得られた。近年、GVHDの重症化に伴って非炎症性微小血管障害などの血液凝固・線溶系亢進を示唆する病態が報告されており、GVHDの病態形成上の意義が示唆されつつある。これまでの研究で我々は、MMP阻害剤の急性GVHDのマウスモデルにおける有効性、線溶系因子プラスミンの生成-プラスミノーゲンの活性化の炎症性サイトカイン分泌を促進するMMP活性の制御因子としての重要性を明らかにしており、現在、これらの臨床データを基礎として、線溶系因子群がGVHD病態において果たす役割についても、マウスモデルとヒト検体の両面から解析を進めている。
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