研究課題
研究では、正常造血微小環境(ニッチ)と白血病ニッチの機能・構成細胞の相違点の詳細解明を通じ、より効果的な造血幹細胞移植、臍帯血移植療法の開発を主な目的としている。前年度までの研究で、代表者らは、ニッチ構成分子の一つで細胞外基質分解に関与するマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の活性が一部の白血病・リンパ腫の骨髄及び血液中で増加していることを明らかにした。また近年、代表者らの研究によりセリンプロテアーゼに属する血液線維素溶解系(線溶系)の主要因子であるプラスミンの生成が、MMPの活性化を制御していることも判明している。今年度の研究で、代表者らは、生体中のMMPの活性化を起点とした、Kit-ligandをはじめとする造血因子の細胞外ドメイン分泌の促進と共に、造血系細胞の分化・増殖、さらに単球・マクロファージ系前駆細胞より分化すると考えられるCDllb陽性F4/80陽性細胞が、主にT細胞由来の白血病・リンパ腫細胞周囲の組織微小環境-ニッチ中に集簇し、血管内皮増殖因子(VEGF)等の血管新生因子やさらなるMMPの産生分泌を通じて、これらの腫瘍増殖に関与することを明らかにした。さらに代表者らの研究グループによって見出されたプラスミン阻害剤が、これら一部のT細胞性白血病・リンパ腫の増殖を抑制することを報告した。このことは、血液凝固・線溶系を起点としたプロテアーゼの活性化が、生体内腫瘍の組織内浸潤、転移を介した増殖に直接関与する以外に、骨髄由来の造血系細胞の腫瘍周囲組織中への動員及び浸潤を介した白血病・リンパ腫ニッチの形成を通じ、腫瘍増殖機構に関与することを示唆しており、白血病・リンパ腫病態解明の点でも重要な研究成果と言える。さらに本研究は、ニッチ構成分子を標的とした新規分子療法の開発基盤としての意義を担っており、臨床検体データについて、現在も解析を進めている。
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