本研究課題ではIL-3受容体と高親和性IgE受容体(FcεRI)に注目し、好塩基球の活性化状態に依存したシグナル伝達の変化とその制御分子について解析することで、アレルギー疾患などの病態におけるシグナル変化の解析を行った。活性化好塩基球ではFcεRIの架橋や抗CD200R3抗体などの刺激による感受性が亢進し、IL-4やIL-6の産生が増加した。逆に休止好塩基球では、IL-3依存性のIL-4産生は観察されるにもかかわらず、FcεRIの架橋やCD200R3などの刺激によるサイトカイン産生は減弱していた。これらの結果から好塩基球では活性化状態に依存した複雑なFcRγ-Sykシグナル伝達の調節機構が存在することが示唆された。遺伝子発現解析の結果、IL-3に依存的に誘導もしくは発現低下するシグナル制御分子が多数存在することを明らかにした。その分子群の中でFcRγ-Sykシグナル伝達の調節機構に関与する分子を詳細に解析している。 また、末梢血においては樹状細胞やマクロファージで発現しているPIR-B分子が好塩基球ではほとんど発現しないことに注目した。興味深いことに培養好塩基球ではPIR-B分子が高発現し、PIR-B欠損好塩基球ではIL-3依存的なIL-4産生シグナルが全く抑制されなかったことから、PIR-BがIL-4産生を制御していると考えられる。さらにFcεRIの架橋や抗CD200R3抗体によるIL-4産生は、野生型とPIR-B欠損好塩基球で差は認められず、PIR-BはIL-3によるIL-4産生シグナルを特異的に抑制していることが分かった。さらにPIR-Bはその抑制機序に重要なITIMを持つことが知られているが、変異体の再構築実験により、IL-3シグナルの制御はITIMに非依存的であり、MHC class I以外の分子がそのリガンドとして機能していることが示唆された。
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