慢性移植片対宿主病(GVHD)は、自己免疫疾患や免疫不全様の病態を呈し、同種造血幹細胞移植における移植後晩期の主要な死因のひとつである。レチノイン酸(ATRA)は、免疫制御作用を有しまた、合成レチノイドであるAm80はATRAに比較してレセプターへの結合活性が強く、アレルギー性脳脊髄炎などの自己免疫疾患モデルマウスにおいて発症進展を抑制することが知られている。我々はATRAやAm80が慢性GVHDに及ぼす影響を、慢性GVHDマウスモデル(ドナー:Bl0.D2、ホスト:BALB/c)を用いて検討した。 移植後day21よりAm80(1.0mg/kg)投与した群はコントロール群に比べ有意に慢性GVHDの臨床スコアが改善した。また、移植後day0より連日、ATRA(200μg/body)あるいはAm80を経口投与すると、慢性GVHDの臨床スコアはATRA投与群で軽度改善、Am80投与群では明らかに慢性GVHDの発症を抑制した(p=0.0003)。皮膚病理組織でもA80投与群では病理スコアが改善し(p=0.003)、線維化因子であるTGF-βのmRNA発現も有意に減少していた。移植後day16の末梢皮膚所属リンパ節における細胞内サイトカインをFACSで検討したところIFN-γ、IL-17陽性細胞がAm80投与群では有意に減少していた。さらに、リンパ節細胞からのサイトカイン産生能もAm80投与群でIFN-γ、IL-17、TNF一α、IL-6が有意に減少していた。リンパ節における細胞内Foxp3陽性細胞と皮膚組織Foxp3mRNA発現を測定したところ、Am80投与群では減少しており、本モデルにおいてはIL-6やTGF-βの低下により制御性T細胞はむしろ低下したと考えられた。 以上より、Am80はTh1およびTh17を抑制し、更にTGF-βを低下させることにより慢性GVHDを改善させることが明らかとなった。慢性GVHDの予防と治療にレチノイド治療が有用である可能性が示唆された。
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