研究概要 |
本研究では血友病Aマウスモデルに線溶系調節因子であるplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)の機能を効率的に制御するシステムを導入することにより、免疫組織に対する線溶系応答の効果的な制御が、抗原特異的な免疫寛容をもたらしインヒビターの発症を予防する可能性を探る。1) 第VIII因子欠損マウスとPAI-1欠損マウスとの交配により新規FVIII/PAI-1ダブルノックアウトマウスを作製した。得られたFVIII/PAI-1ダブルノックアウトマウスは、第VIII因子欠損マウスに比べてさらなる易出血性を示したが、妊容性は第VIII因子欠損マウス同等であり、安定的なマウスコロニーを確立することができた。2) 第VIII因子抗原の経静脈的反復感作に対する免疫応答性は、FVIII^<-/y>,-/-PAI-1^<+/+>が62.6±16.4BU/mL(n=21)であったのに対して、FVIII^<-/y>,-/-PAI-1^<+/->ては38.7±22.7BU/mL(n=13)、FVIII^<-/y>,-/-PAI-1^<-/->で10.9±4.8BU/mL(n=16)とPAI-1遺伝子を欠損させることにより、明らかに抗体価の減少がみられた。3)一方tetanus toxoid腹腔内投与による免疫応答はPAI-1遺伝子欠損の影響を受けなかった(FVIII^<-/y>,-/-PAI-1^<+/+>1.14±0.07AU,n=8vs FVIII^<-/y>,-/-PAI-1^<-/->で1.15±0.14AU,n=10)。これらのことから、世界で初めて作製されたFVIII/PAI-1ダブルノックアウトマウスを用いた解析により、血友病A個体における線溶系応答の効果的な制御が、抗原特異的な免疫寛容をもたらしインヒビターの発症を予防する可能性が示されたものと考えられる。免疫系制御に線溶系が積極的に関わるとする知見は新しく、本マウスや線溶系遺伝子改変システム用いることにより、線溶系と免疫系との関わりを多角的に具現化できることから、血友病Aインヒビターの発症予防における特異的かつ効率的な新規治療法の開発基盤に繋がる可能性が高いと考えられる。
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